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春先の風は冷たかったが、彼の背中は温かかった。 バイクは敷地を飛び出し、川沿いのアスファルト道にさしかかる。 「直線だから、飛ばすからな!」 男は笑顔でスピードを上げる。 風が2人を包み、服をあおった。 慌てて裾を抑える彼女に目を細めて喜ぶ男を、女は睨み付ける。 だが風を受ければうける程、女の不安は増すのである。 怪我の治った男が回復と共に遠くに去るのは、この土地に春が来るのと同じ位当然の事。 朝の窓ガラスが凍らなくなったり、タイヤのチェーンが外されたり、そんなひとつずつ近づく春の足音だったが、逆に彼女の心は降り積もる雪に隠された土のように、深く、重くなっていくのだった。 |