![]() |
「こんな時期にバイクなんか乗ったら転ぶに決まってるでしょう。どういうつもりだったんですか?」 看護婦の問いに男は力無く答えた。 「夏に来た時に、もう1度来たいと思ったんだ。寒い時に。」 「寒い時に・・・どうして?」 「夏の景色では見えないものも見たかったんだ。観光客が去った後の景色とか、雪が積もった山とか。」 男はバイクで各地を旅し、本に文章を載せているという。 「看護婦さん、俺はもうバイクには乗れないのか?」 男が病室から見る空は相変わらず暗く、窓の外を眺める彼の瞳は何処か遠い場所を見ていた。 「おかしな事を言わないで下さい。先生の言う事を聞いて、治るまでじっとしてれば大丈夫ですよ。」 毎日同じ事ばかり言う彼に、彼女も同じ言葉ばかりを繰り返す。 だがそう言うと、男は喜ぶのだった。 暇を持てましている患者に、彼は余所の土地の言葉で旅の話をする。 大人も子供も職員も目を輝かせて彼の話を聞く中、気がつけば女も彼の話を待つようになり、そして、いつしか男は大勢相手ではなく彼女一人相手だけに話をするようになっていたのだった。 2人は恋に落ちた。 |