2001.5.25
「ん・・・。」 長いくちづけの後の名残惜しさを、女は口にした。 だが、次第に離れてゆく二つの唇。 男の腕が女の頬を包む男の手のひらも、情熱的な動きを冷ましてゆく。 「はぁ・・。」 それでも、苦しかった息を吸おうと、体は自然に呼吸を求める。 歓喜の溜息ともとれる息を大きく吐き出した。 女は目を開ける。 そこには、彼がいた。 今まで自分を独占していた、愛しい男が。 少しも色気など無い男な筈なのに、今の彼女には彼はあまりにも艶かしかった。 さっきまでせわしなく動いていた唇の艶やかさであろうか? それとも、一心に恋する瞳であろうか? 彼の青い瞳は、何も見ていないように見えた。 だが、ある意味そうなのだ。 彼は目の前の物は何も見ていなかった。 ただ、彼女の。 彼女の心を確かめるのに精一杯で。 目に見えるものなど必要ではないのだ。 「恋する心が見えればいいのに。」 彼はいつも思っていた。 その頬を、唇を独占しても、出てくるのは彼の思惑とは外れた言葉ばかり! 男はいいかげん、自分の恋の方向と深さを疑った。 検討違いの恋に、未来など見えるのかと疑問を抱いた。 だが、彼は愛するしか無いのだ。 彼女は今、そこにいる。 「・・・・・!」 彼は突然耳元に気配を感じた。 「・・・じっとしてて。」 温かい指先が伸びてきて、彼の頬を包んだ。 女は男の耳元で、溜息とも囁きともつかない声色を放つ。 ほとんど聞き取れない大きさの声であったが、彼には聞こえていた。 「あなたの耳が好き。」 「・・・え?」 男は意外な告白に驚いた。 それに気がついた女はからかっているのか、少し微笑みを含む声を出す。 そして、声にならない声は続く。 ふぅ、と息がかかる度に、男は経験の無い疼きが体を駆け抜けるのを感じていた。 「スキよ、あなたの・・・体が。」 |