廊下を通り庭に出ると、月の光は一層明るくなったような気がした。 一面の星空の瞬きが見守る中、二人は外に出る。 だが古い戸を開ける音が思ったより大きく響き、彼らはドキリとする。 「何だか悪いことしてるみたいね、ドキドキする。」 彼女は明らかにはしゃいでいた。 彼の手を取って外へ促し、早い足取りでどんどん向こうへ歩いてゆく。 「ねえ、見て!雲が全然無いの。空が星でいっぱいになってる!」 そんな様子は普段の彼女と違ってとても幼く見えた。 嬉しくて仕方が無いという風に空を見上げ、目を輝かせて。 だがそんな女の予想もしなかった行動に男はただ、戸惑う。 掴まれている手を反対に強く握り、彼女の動きを止めようとして声をかけた。 「・・・待った、何処へ行くんだ?」 彼は女の力に驚きつつ、心底慌てていたのだ。 「そっちは裏庭じゃないだろう?」 女はその声で立ち止まって彼の方を見た。 その視線に男は打たれる。 彼女が何かを企んでいる時の目だ(そして彼はそれに至極弱かった)。 女は予想通り、甘えた声で首を傾げながら聞いた。 「行ってみたい場所があるの・・・いいでしょう?」 そんな時、彼は抵抗できなくなる。 そうして自分の意思が通ったことが分かった女は満足げな笑みを浮かべ、 再び男の手を取って先を急いだ。 外の空気を吸った女は水槽の中と違って、息を大きく吸い、手足を自由に広げることが出来た。 動くたびに作り出される風が髪や服をすり抜けて彼の気を引こうとする。 そのひとつひとつが作り出す光と陰、月の淡い光を受けた彼女の全てが彼の心を虜にした。 男は何度考えても信じられなかった。 彼女は自分を愛しているという。いつも傍にいて欲しいと。 そうして無防備な姿をさらして彼に身を委る。 彼にはそんな存在がこの世にあることが信じられないのだ。 常に自分を慕い、愛を持って受け入れる温かい体。 彼の頭や背中を緩やかに撫ぜる手のひら。 囁く甘い声。 そしてその唇から漏れる愛の言葉。 そんなものが自分の世界に歩み寄って来た時の感動はとうてい表現出来ない。 その為彼女に求められている自分というものに気がつくまでに時間がかかったが、今の彼には少しづつ理解出来てきた。 いっしょにいること。 何もしなくても、二人でいれば自分達は幸せなのだと。 それをずっと前に分かっていた彼女はおずおずと手を差し出した彼の腕に飛び込み、彼もその温もりを愛した。 彼らは互いに必要だったのである。 |
・・・次もあったりします。
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