**maniac+complex**
VOTOMS WONDERLND
「装甲騎兵ボトムズ
俺的図書館」
オリジナル小説
「月光」
P2
月の光が彼女を後ろから照らし、彼に見せつける。 ぼんやりとして夢見心地な目をした横顔はまだ彼のことを忘れられないように見えた。 その腕や足は豊かな胸元や臀部に比べて少し細く、長過ぎるようであった (彼の大きすぎる服も袖だけは丁度良く馴染んで、女は何枚かを自分も着るようになった)。 肉付きの良い腿は膝を通って足首まで実に見事な曲線を描いていた。 余分な肉は無く、無駄な膨らみは無い。 まさに芸術品である。 男は彼女を作り出した連中に嫉妬を抱くことがあった。 このように美しい女をどんな顔で見つめていたのだろうか? 品の無い顔ならすぐさま叩きのめしたいし、少しの欲望も抱かないならそれもまた、腹が立つ。 兎に角自分以外の人間が見ていたということ自体が嫉妬の種なのだ。 彼は独占欲が強いのかどうかは自分では分からなかった。 他に何も欲が無いのだから比べようが無い。 ただ、彼女のことになると彼の心は狭くなった。 笑顔や興味が他の人物に向いているだけで心に陰が宿る。 嫉妬だ。 まだ自身の恋心をどう扱っていいかと、手に余る程の魅力を持ったこの恋人をただひたすら恋焦がれていたのだ。 その月光にさえ嫉妬をし、彼女の心が自分に向いているかを確かめたい衝動にかられる。 だが。 そんな幼稚な衝動さえも忘れる程に、今の彼女は美しかった。 触れてはいけないガラス細工のような女は、彼女がヒトであることさえも忘れる程の光を放っていた。 圧倒的な「美」の力の前では、カヤの外に置かれてしまった男は黙って見とれるしかないのである。 「綺麗ね。」 「・・・え?」 突然の問いかけに男は身を乗り出すだけで返事が出来ずにいた。 「・・・何が?」 女はようやく振り返り、優しい視線を彼に投げかけた。 「月が、綺麗。」 確かにその夜は見事な満月であった。 晴れ渡った天空には光を邪魔するものなど無く、その存在感は圧倒的に空を支配していた。 彼女はそんな空を見ていたのである。 「ねえ、外に出ない?歩きたいの。」 女は柔らかい髪をかき上げながらその体を無邪気に彼に見せつけ、壁に寄りかかってまた、空を見上げた。 「このままじゃ・・・寝れないみたいだから。」 悪戯っぽい視線を彼に向け、手を差し出す。 「あなたは違うの?」 「・・・・・。」 男はどう返答してよいものか考えあぐねていたが、女はいつものようにそんな彼の単純さを可愛がりつつ、ベッドから強引に引きずり出した。 そうしてテーブルの上にあったコップの中身を飲み干し、鏡を見ながらすっかり乱れてしまった髪を整える。 窓は開けたままだ。 そんな女をよそに、男は先ほどから不安そうにベッドの端に腰かけていた。 女が気づく。 「・・・どうしたの?」 「あ・・・。」 男は弾んだ女の口調で、一層眉をしかめる。 「何?何かダメなことでもあるの?」 「このままで・・・。」 男は口篭もる。 まだ内容が掴めない女は純粋に尋ねた。 「ままで、何・・・?」 「この格好のままで・・・行くのか?」 「・・・え?」 だがそんな真剣な男の心配を余所に、女は可笑しくてたまらないという風に、しかし夜中だということを考えて声をひそめて笑い出した。 男はどうしてそんなに笑われるのかが理解出来ずにきょとんとしていたが、女の笑い声を聞くうちに自分が彼女を愉快な気持ちにさせたという成果を知り、自分も笑顔を浮かべた。 会話に関して、彼は数少ない言葉で彼女の心を掴む技があった。 男の単純な発想は女の複雑な心の隙間をつき、笑顔や笑い声を誘った。 彼らは実に気の合う人間同士だったのである。 一通り笑い終えた彼らは二人は軽くキスをし、傍らに脱ぎ捨ててあった服を着て、外に向かった。 まだ夜空は明るく光輝いていた。 |