**maniac+complex**
VOTOMS WONDERLND
「装甲騎兵ボトムズ
俺的図書館」

オリジナル小説
「月光」
P1

月光 月光ー海底

寝苦しい夜だった。
大気の吐き出す水蒸気は夜になっても収まらず、
とうとう人々がベッドで深い眠りにつく時間までその勢いを止めなかった。
外の動物達も落ち着かなく動きを止めない。
この地方の気候は大概にしてこうであったが、馴れるというものではない。
どちらかというと自分をそこに押し込めるのだ。
水蒸気の中にいても、平静を保つように。
流れ出る汗に逆らうように深い眠りを求め、人々はようやく安息を得るのである。

以前にこんな気候の地にいたものの、やはり彼らにも気持ちの良いものではなかった。
男共は日々「暑い」と繰り返し、酒をあおって夜を過ごした。そうしてそのまま眠りにつくのである。
実に単純な方法に女は呆れながらも、ベッドに送り出す。
だが酒の飲めないこの男はそうもいかなかった。そして彼にはやることもある。
今の彼は大きな顔をして外を歩けなく、恋人も同じ身である。
だが夜の帳が優しく二人を包む時、彼らの平穏な時間が始まる。
ほんのわずかな、時間と距離にしてみれば本当に些細なものであったが、
彼らにはそれが外の世界の全てであった。
部屋から外に出て、歩く。空を見上げてその向こうにあるものを想像する。
下界にいる明かりに包まれた、知らない人々の話をしてみる。
そんなことでも部屋の中とは違うものに思えるのだ。

そして、夜の彼女は昼間にも増して美しかった。
それは多分に自由な空気が彼女をそうさせているのだが、
月の光に照らされている彼女の頬にくちづけすると、
彼女は大理石で造られた像に触れているようなひんやりとした感覚と滑らかさで彼を招き入れた。
そして次の瞬間には息を吹き込まれたヒトとなり、熱い鼓動を含む肌で彼を包むのである。
彼女にとってもそれは新鮮な体験であった。
昼であろうと夜であろうと構わない。彼女にとって大切なのは「何をしているか」なのである。
彼と一緒に時を過ごすということは、それだけで幸せであった。
目を開けると彼がいた。
目を閉じても、彼の鼓動と温かい体温がそこにある。
触れる手に力を込めると、同じように握り返してくる指先に、言いようのない幸福感で満たされる。

すぐ横の防風林に守られたこの裏庭こそが、彼らの「家」であった。
人の寄りつかない(仲間は気を使ってここには入らないようにしていた)この場所が、
昼も夜も彼らを包みんで祝福した。
鳥の声も木々のざわめく音も語りかけるような陽の光も全てが優しく、責めず、追いたてず、
また、かまいもせずに彼らを見守るのである。
なんという幸福な空間であろう!
女はここでは、自分の幸運に酔いしれることが出来た。
愛する男と二人で思い思いの言葉を囁いていられるなど、以前には想像もしなかった。
少し前は彼の愛を疑い、また少し前には彼自身を疑っていたのだ!

だが、彼らはそれを乗り切った。
そうして今、ここに二人でいるのである。
体を重ね、言葉を重ね、もう彼らは真の愛情を分かち合っているといって間違いないであろう。
朝から晩まで男は暇さえあれば女を見つめ、
女は愛されているという実感をかみ締めながら、それを何気なくやり過ごした。
そして夜になると彼の腕の中に滑り込んで愛を乞い、
彼らは互いの温もりに体を埋めるのである。

その夜は、普段にも増して寝苦しい夜であった。
夜更けまでベッドで寝返りを繰り返しながら薄い布1枚だけを握り締めて、
かなり遅い時間になってようやく、他の部屋の仲間は寝入った。
だが彼らはまだ先刻までの戯れの火照りから冷めることが出来ずに、
何も身に着けないままでまるで温度の高い水槽に入れられた魚のように、
暗い部屋の中をぼんやりと漂っていたのである。

「・・・暑いな。」
男はなんとなく、といった感じでこの言葉を口にした。
「まるで風も無い。」
「・・・そうね。」
女はそのすらりとした裸体を隠そうともせずに、窓際に佇んでいた。
「まだ体が熱い。」
彼女も自分の肌に触れながら何となくそう言った。


・・・次回へ続くきます(^_^;)/

・・・次もあります(^_^;)
←・・・次も見ますか?マニアック+コンプレックス〜ボトムズワンダーランド〜
GO TOP!  GO MENU!